【改正相続法④】遺産分割がからむ場合の遺留分侵害額の計算方法の統一【具体的相続分説】


<Summary> 
1 遺留分侵害額の算定方法 

遺留分=A【遺留分を算定するための財産の価額】×1/2×(法定相続分)
遺留分侵害額=(遺留分)-(特別受益の額) 
      -B【遺産分割において取得するべき財産の価額】 
      +(相続によって負担する債務の額) 
2  A【遺留分を算定するための財産の価額】
=(相続開始時において残っているプラスの遺産)
 +(相続人に対する生前贈与の額)※原則10年以内
 +(第三者に対する生前贈与の額)※原則1年以内
 -(債務全額)
3 B【遺産分割において取得するべき財産の価額】
遺産分割未了でも具体的相続分に応じて遺留分権利者が取得するべき財産の価額をいう
4 複数の侵害行為がある場合の順序 
・遺贈と生前贈与がある場合には遺贈が先に対象
・複数の遺贈、複数の生前贈与がそれぞれある場合には、目的物の価額に応じて
5 権利行使期間と金銭債権の時効期間
・侵害額不明でも相続開始&侵害事実を知ってから1年以内に権利行使が必要
・具体的金銭債権としては5年の消滅時効 

前回は、遺留分侵害額算定のうち、上記A【遺留分を算定するための財産の価額】についての新法における計算方法をご紹介しました。 

今回は、上記B【遺産分割において取得するべき財産の価額】について新法の下での計算方法や注意点をご紹介します。

遺産分割がからむ遺留分侵害額の計算方法

【具体例2】 

相続人は、妻X,長男Y、長女Zの3名。 
夫が亡くなった時点で有していた財産が5000万円あったが、長男Yに500万円、第三者甲に4000万円をそれぞれ遺贈する内容の遺言書が見つかった。なお、遺産分割は未了である。 

【計算方法】

【1】遺産分割 

まず、遺産分割をした場合のX~Yの具体的相続分を求めます。 
遺贈対象外の財産は5000万円-(500万円+4000万円)=500万円ですので、 

・妻X =(500万円+Yへの500万円)×1/2=500万円 
・長男Y=(500万円+500万円)×1/4-500万円=-250万円
・長女Z=(500万円+500万円)×1/4=250万円 

したがって、遺贈対象財産を除いた手元現金500万円についてのX~Yの取り分は、 

・妻X =500万円×500/(500+250)=333万3333円(①)
・長男Y=0円(②) 
・長女Z=500万円×250/(500+250)=166万6667円(③) 

【2】遺留分 

次に、各人の遺留分を確認しておきます。 

・妻Xの遺留分 =5000万円×1/2×1/2=1250万円 
・長男Yの遺留分=5000万円×1/2×1/4=625万円 
・長女Zの遺留分=5000万円×1/2×1/4=625万円 

【3】遺留分侵害額 

では、遺産分割が未了の本件で、各人の遺留分がいくら侵害されたといえるのか、遺留分侵害額を求める計算式は次のとおりです。 

遺留分侵害額=(遺留分)-(特別受益の額) 
B【遺産分割において取得するべき財産の価額】 
+(相続によって負担する債務の額) 

遺産分割が未了の状態であれば、上記B【遺産分割において取得するべき財産の価額】が決まっていないことになりますので、これをどう捉えるかで、遺留分侵害額の結論が変わってくることになります。

旧法下では実務上、【法定相続分】を前提として計算する考え方と、【具体的相続分】を前提として計算する考え方がありました。 この、旧法下の【法定相続分】を前提として算定する考え方によれば、 

・妻Xの遺留分侵害額 =1250万円-500万円(遺産分割対象残余財産)×1/2=1000万円(④)
・長男Yの遺留分侵害額=625万円-500万円-500万円×1/4=0円(⑤) 
・長女Zの遺留分侵害額=625万円-500万円×1/4=500万円(⑥) 

となり、各自の最終取得額としては、 

・妻X   1333万3333円(①+④)
・長男Y   500万円(②+⑤+遺贈分500万円)
・長女Z   666万6667円(③+⑥)
・受遺者甲   2500万円(=4000万円-(④+⑤+⑥)) 

と、遺贈を受けた長男Yの方が、遺贈を受けなかった長女Zよりも最終取得額が小さくなる逆転現象が生じる場合があり、相当ではないとされていました。 

新法による計算方法の統一/具体的相続分説

新法では、【具体的相続分】を前提とした計算をすることを明らかにしました(新法1046Ⅱ②)。この考え方では、各自の遺留分侵害額は、

・妻Xの遺留分侵害額 =1250万円-333万3333円=916万6667円(④’)
・長男Yの遺留分侵害額=625万円-0円-500万円=125万円(⑤’) 
・長女Zの遺留分侵害額=625万円-166万6667円=458万3333円(⑥’) 

したがいまして、遺留分侵害額請求の結果としては、 

・妻Xが、受遺者甲に対して、916万6667円請求できる
・長男Yが、受遺者甲に対して、125万円請求できる
・長女Zが、受遺者甲に対して、458万333円請求できる
・受遺者甲は、2500万円取得できる(=4000万円-遺留分侵害額合計) 

となります。 

【4】最終的な各自の取得額

以上より、遺産分割も含めた各自の最終取得額としては、

・妻X   1250万円(①+④’)
・長男Y   625万円(②+⑤’+500万円)
・長女Z   625万円(③+⑥’)
・受遺者甲   2500万円 

となります。 

遺産分割の終了を問わない点に注意 

注意すべき点は、上記事例においてXYZ間で遺産分割が先になされて、その遺産分割協議の結果、現実の遺産分割の分配額が、たとえば、X0円、Y500万円、Z0円と上記①~③と異なる形で行われたとしても、遺留分侵害額の計算はあくまでも上記具体的相続分での計算となるということです。 

すなわち、遺産分割の前であろうと、実際に行われた遺産分割の後であろうと、上記遺留分侵害額④’~⑥’は変わりません(=受遺者甲の負担は同じ)。

仮にこれが、現実の遺産分割額を前提に遺留分侵害額を算定するとなると、上記事例では、受遺者甲は、妻Xに1250万円、長女Zに625万円の遺留分侵害額を支払わねばならなくなる結果、取得額が2125万円と減ってしまいます。

遺産分割前であれば2500万円確保できたはずなのに、自らのあずかり知らない分割方法次第で最終取得額が減ってしまうというのは、相続人間での分割結果を知る立場にない受遺者甲の地位を不安定にしてしまいますので、これを保護するため、新法では、遺産分割の前後を問わず、具体的相続分で計算することとしたのです。 


前回に引き続き、今回も計算がメインになってしまいました。 

遺留分侵害の事案は、結局は、「誰にいくら(何を)請求できるのか?」という点に収斂されていきますので、説明するのにどうしても具体例を用いた算術的な形にならざるをえず大変恐縮ですが、お付き合い下さりありがとうございます。 

次回は、新法により金銭債権となった遺留分侵害額請求権の権利の性質を、旧法との対比の観点から、事例を交えて確認したいと思います。 不動産の遺贈があった場合には、請求できる内容が根本から変わってしまう極めて重要な点になります。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。