【改正相続法③】相続人への生前贈与と遺留分侵害額算定の変更点、今後予想される紛争類型【新旧対比】


<Summary> 
1 遺留分侵害額の算定方法 

遺留分=A【遺留分を算定するための財産の価額】×1/2×(法定相続分)
遺留分侵害額=(遺留分)-(特別受益の額) 
      -B【遺産分割において取得するべき財産の価額】 
      +(相続によって負担する債務の額) 
2  A【遺留分を算定するための財産の価額】
=(相続開始時において残っているプラスの遺産)
 +(相続人に対する生前贈与の額)※原則10年以内
 +(第三者に対する生前贈与の額)※原則1年以内
 -(債務全額)
3 B【遺産分割において取得するべき財産の価額】
遺産分割未了でも具体的相続分に応じて遺留分権利者が取得するべき財産の価額をいう
4 複数の侵害行為がある場合の順序 
・遺贈と生前贈与がある場合には遺贈が先に対象
・複数の遺贈、複数の生前贈与がそれぞれある場合には、目的物の価額に応じて
5 権利行使期間と金銭債権の時効期間
・侵害額不明でも相続開始&侵害事実を知ってから1年以内に権利行使が必要
・具体的金銭債権としては5年の消滅時効 

遺留分侵害額の算定方法 

本記事では、主に遺留分侵害額の計算方法と、改正相続法により新たに生じることが想定される紛争類型のご紹介をいたします。 
旧法と新法とで結論が変わりうる事例(上記A、Bの算定方法)でご説明致します。

【具体例1】 

相続人は、妻X(法定相続分1/2),長男Y(1/4)、長女Z(1/4)の3名。 
夫が亡くなった時点で有していた財産が6000万円あったが、第三者甲にこの全額を遺贈する内容の遺言書が見つかった。なお、夫は、長男Yに対して12年前に4000万円贈与していた。 

【計算方法】 

旧法下での処理

まず A【遺留分を算定するための財産の価額】を求めます。 

旧法下では相続人に対する生前贈与は無制限に算入されていましたので、
A【遺留分を算定するための財産の価額】=6000万円+4000万円=1億円 

したがいまして、
・妻Xの遺留分 =1億円×1/2×1/2=2500万円(=侵害額)
・長男Yの遺留分=1億円×1/2×1/4=1250万円
(4000万円の生前贈与(特別受益)を受けていたので遺留分侵害はなし)
・長女Zの遺留分=1億円×1/2×1/4=1250万円(=侵害額) 

よって、この場合の旧法下における処理は、
・妻Xが、受遺者甲に対して、2500万円請求できる
・長女Zが、受遺者甲に対して、1250万円請求できる
・受遺者甲は、2250万円取得できる(=6000万円-(2500万円+1250万円)) 

新法下での処理

長男Yへの生前贈与は10年以上昔なので、新法によれば、A【遺留分を算定するための財産の価額】には含まないことになります(新法1044Ⅲ・Ⅰ前段)。ただ、特別受益には当たるので、 

A【遺留分を算定するための財産の価額】=6000万円 

したがいまして、 

・妻Xの遺留分 =6000万円×1/2×1/2=1500万円(=侵害額)
・長男Yの遺留分=6000万円×1/2×1/4=750万円 
(4000万円の生前贈与(=特別受益)を受けていたので遺留分侵害はない)
・長女Zの遺留分=6000万円×1/2×1/4=750万円(=侵害額) 

よって、改正相続法の下における処理は、 

・妻Xが、受遺者甲に対して、1500万円請求できる
・長女Zが、受遺者甲に対して、750万円請求できる
・受遺者甲は、4000万円取得できる(=6000万円-(1500万円+750万円)) 

改正相続法の影響

このように、旧法と新法とでは、上記事例で、生前に大きな贈与(特別受益)を受けていた長男Yの最終的な取得分は変わりませんが、妻Xと長女Zが受遺者甲に対して請求できる金額(→受遺者甲の取得できる金額も)が大きく変わることになります。

想定される新たな紛争や相続対策

この遺留分算定の基礎財産(A)に加算される相続人への生前贈与を10年以内に限定するという新法の規定は、受遺者保護の観点から設けられた規定ですのでこのような帰結になるのですが、今後、新法下で想定されうる紛争としては、生前贈与の事実の有無や、特別受益にあたるのか、といった従来の争いに加え、これらが認められた場合には、贈与契約の締結が10年前より前か後かという時期も争点になるでしょう。 

 
遺言で受遺者に遺産をできるだけ多く残したい(=遺留分侵害額を小さくしたい)のであれば、相続人への生前贈与は、できるだけ早い段階でやっておくべき(生前贈与をしてから10年以内に亡くなると遺留分侵害額算定の基礎に含まれてしまい、侵害額が大きくなるため)ということにもなろうかと思います。 

次回は、引き続き、遺留分侵害の具体的事例をもとに、遺産分割が一部残る場合の遺留分侵害額計算の新旧相違をご紹介いたします。 

ここまでお読み下さってありがとうございます。