【改正相続法①】改正のポイントと実務への影響1【総論】

改正相続法 待ったなし!

明治29年(1896年)に制定されて以来、約120年間ほとんど改正されてこなかった民法の債権法(契約・取引関係)が大幅に改正され、令和2年(2020年)4月1日から施行されることは、ニュースでも度々取り上げられていますし、法曹関係者でなくともご存知の方も多いと思います。

債権法改正が「明治の民法制定以来の大改正」とインパクトが大きいこともあり、その陰に隠れてしまっていたように思われるのが、「相続法の改正」です。

債権法改正も、時効期間の短縮をはじめとして実務に及ぼす影響は大きく当然重要ですが、実は、今回の相続法改正は、従前の制度を大きく変更し、また全く新しい制度を創設していて、通常の遺言・相続事案や遺産分割事案だけでなく、企業活動・事業承継の分野にも影響を及ぼす実務上のインパクトが非常に大きいところです。

そして、誰しもいつかは死を迎える以上、相続法の改正こそが、広く国民全体に影響を及ぼしうるものといえるかもしれません。

当ブログでは、今回から、複数回にわたって、改正相続法についてのポイントと実務的影響等を、私自身の備忘録の意味も込めて、ご紹介していきたいと思います。

まず、第1回目は、総論として、改正の趣旨と施行日を取り上げます。実は既に施行されている分野もあるのです(2019年4月11日執筆時点)。

<Summary>
1 改正相続法の趣旨・特徴

 ⑴ 少子高齢化社会の本格到来
   →①配偶者保護のための新制度創設
    ex 配偶者居住権、持戻し免除の意思表示推定
 ⑵ 円滑な事業承継の実現、家族の在り方の多様化
   →②遺言利用促進のための新方策
    ex 遺留分侵害制度の大改正、自筆証書遺言の方式緩和
 ⑶ 権利意識の変化
   →③利害関係人の実質的公平を実現
    ex 特別寄与料の請求、遺産分割前の預貯金払戻制度
      遺産分割前の遺産処分に関する規律
      法定相続分を超える権利取得への対抗要件主義
2 施行日
 ① 2019年1月13日 自筆証書遺言の方式緩和 <施行済み>
 ② 2019年7月1日  改正相続法の原則的施行日
              遺留分制度の見直し
              遺産分割前の預貯金払戻制度
              特別寄与料
 ③ 2020年4月1日  配偶者居住権・配偶者短期居住権
 ④ 2020年7月1日  遺言書保管法

改正相続法 3つの趣旨

なぜいま相続法改正なのか、と改正の趣旨と特徴を押さえれば、個別の改正点も理解しやすいと思います。

1点目は、我が国の少子高齢化社会の進展です。

平均寿命が男女ともに伸びて高齢化が進む一方で、出生数の大幅な減少、合計特殊出生率の低下により少子化が進み、子どもの数は減りました。

この少子高齢化が相続分野にどのような影響を及ぼすかという点です。
たとえば、高齢の両親のうち、先に父親が亡くなったという場合。
相続開始時点において、既に母親は年老いて無職であるため経済的な保護の必要性が高い一方で、子は経済的に独立していて、しかも(昔よりも)きょうだいが少ないために子1人当たりの遺産の取り分割合が増えることになり、遺産分割の場面ではそれほど手厚い経済的な保護を与える必要性が高いわけではない、ということになります。

このように、典型的な相続場面である、配偶者と子が相続人になるケースを念頭に置いた場合、子よりも配偶者(上の例では高齢の母親)の保護を図るべき必要性が高まってきた、というわけです。

その結果、今回の改正相続法では、「配偶者居住権」「配偶者短期居住権」といった配偶者保護のための新制度が創設されました。

また、婚姻期間20年以上連れ添った夫婦において、例えば夫が妻に居住用不動産(自宅)の贈与等をした場合には、夫死亡時における遺産分割の際に、その贈与された不動産を遺産分割の対象となる遺産価額には含めない「持戻し免除の意思表示」があったものと法律上推定する、と従来の取扱いの原則・例外を逆転させて、贈与等を受けた配偶者の最終的な取り分を多く確保することとしました(詳しくは各論で)。

2点目は、家族の在り方が多様化する中、亡くなる方の生前の意思を尊重した遺言をより積極的に活用することで残された家族の生活を保障する、さらには企業活動の観点からは、円滑な事業承継を実現して、会社を取り巻く取引先や従業員・株主等関係者の利益を守るという点も挙げられます。

このような観点から、遺言制度等様々な改正がなされましたが、特に実務的に重要と考えられる改正点といえば、遺留分に関する制度です。

実務的に極めて重大な改正点であり、しかもこの点に関する施行が、令和元年(2019年)7月1日と本記事執筆時点で既に3ヶ月を切っていますので、次回から、まずこの新しい遺留分制度についてご紹介したいと思います。

3点目は、家族の在り方の多様化や権利意識の変化に伴い、これまでの形式的・画一的な法定相続分制度での相続処理では、相続人を含めた利害関係人の実質的公平が害される場合があった点を是正する必要がある、という点です。

具体例でご説明しましょう。

たとえば、夫と高齢の義父と同居中の妻(相続資格はありません)が、大変な思いをしながら義父の生前の身の回りの世話や介護をして、療養看護に努めて義父の財産の維持や増加に貢献してきた場合であっても、その後義父が亡くなったときには、従来の相続法では、相続人ではない妻には遺産に対して何らの権利も認められず、その貢献は報いられませんでした(事務管理や不当利得返還請求など技巧的な法律構成は考えられましたが、請求が認められることは困難でした。)。

そこで、改正相続法では、「特別寄与料の請求」という制度を創設して、このようなケースで特別な寄与をした非相続人である妻から、遺産分割の手続外で、一定の要件のもと、相続人に対する相当額の金銭の請求を認めることとしました。
これまで相続人にしか認められなかった「寄与分」に似た本制度により、これまでの貢献が評価されることになりますので、利害関係人の実質的な公平を図るための新制度の一つとなります。

改正相続法の施行日

施行日等については、相続法改正に関する法務省のパンフレットをリンクしておきます。
 http://www.moj.go.jp/content/001285654.pdf

主な施行日
 ① 2019年1月13日 自筆証書遺言の方式緩和 <施行済み>
 ② 2019年7月1日  改正相続法の原則的施行日
              遺留分制度の見直し
              遺産分割前の預貯金払戻制度
              特別寄与料 etc…
 ③ 2020年4月1日  配偶者居住権・配偶者短期居住権
 ④ 2020年7月1日  遺言書保管法

あと3ヶ月も経たないうちに、民法の相続法については、配偶者(短期)居住権以外はすべて施行されることになります!!

次回、新しい遺留分侵害制度について、事業承継との絡みでご紹介したいと思います。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。