10連休で更新がしばらく空いてしまいました。
皆様いかがお過ごしでしたか?(私は、国生みの島・淡路島で令和を迎えました。 )
さて、今回は、遺産分割についてどのようなルールの変更があったのか、ポイントを押さえていきます。
<Summary>
1 具体的相続分を求める計算式
具体的相続分=(相続開始時に有した財産の価額+生前贈与の価額-寄与分)
×(当該相続人の相続分の割合)-(特別受益の額)
+(当該相続人の寄与分)
2 遺産分割における取得額の算出
遺産分割での取得額=(遺産分割における対象財産の価額)
×(当該相続人の具体的相続分)/(全相続人の具体的相続分の総和)
法定相続分と具体的相続分
相続人が複数いる場合には、各自の法定相続分に従って遺産分割を行ないます。
法定相続分は、単純に割合比が法で定められていて、
配偶者:子 =1:1
配偶者:親 =2:1
配偶者:兄弟=3:1
となります。
※婚姻関係にない両親の間に生まれた非嫡出子の相続分が、婚姻関係のある両親の間に生まれた嫡出子の相続分の1/2とする旧民法§900④但書前半は違憲として削除され、現在では、平成13年7月1日以降に開始した相続については、すべて平等に扱うこととなっています。
この法定相続分に従うだけであれば、遺産分割は、あとは遺産の範囲さえ確定すれば自動的に決まってくるのですが、生前、たとえば夫から妻に不動産や多額の財産を贈与していたというケースもありますよね。
そのような生前の特別な財産変動を、遺産分割時点で、ある程度公平性を保って妥当な解決を導こうと、「具体的相続分」を算定する上で大きな役割を果たすのが、
① 特別受益
② 寄与分
の各制度となります。
そして、今回の改正相続法では、表題の「持戻し免除の意思表示推定」は、①特別受益を考える上での新たな規定の創設となります。
※なお、改正相続法では、相続人にしか認められない②寄与分と似た言葉を用いた制度として、相続人以外の者(長男の妻など)にも特別寄与料の請求権という形で新たな制度を創設しましたが、相続人の「寄与分」が相続人間での遺産分割の前提問題として取り扱われるのに対して、相続人以外の第三者からの「特別寄与料請求」は、あくまでも遺産分割の手続外で行なわれるもので、寄与分とは異なる扱いとなっていますので、ここでは取り上げず、後でピックアップすることにします。
特別受益とは
§903Ⅰ
「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」
要するに、遺贈や、婚姻・養子縁組・生計の資本としての「特別な」生前贈与を受けていた場合には、生前贈与分の価額(注:相続開始時点での評価額)を、亡くなった時点での遺産に加算(=この死亡時の遺産に加算することを「持ち戻す」といいます)して遺産分割対象財産として、贈与や遺贈を受けた相続人の相続分から、最終的にこれらを既に取得済みとして差し引く計算をするわけです。
具体的相続分=(相続開始時に有した財産の価額+生前贈与の価額-寄与分)×(当該相続人の相続分の割合)-(特別受益の額)+(当該相続人の寄与分)
この持ち戻し計算により、たとえば、夫が亡くなる前に妻にのみ自宅不動産を生前贈与していた場合でも、最後の遺産分割が完了した時には、最終取得額が各自平等になるよう調整がなされるようにしているわけです。
ただ、どんな場合でも持ち戻し計算をすると、生前贈与をした意味がなくなってしまうことがあります。
つまり、亡くなった夫からすれば、特に、妻への生前贈与などは、「子どもたちは独立して稼いでいるから遺産は残さなくても構わないが、1人残された妻の老後の生活を考えて、妻には特に多めに遺しておきたい」という意思での贈与である場合もあるわけで、それをすべて最後には平等になってしまう(=分割時には妻は分配を受けられないかもしれない)のでは、かえって生前の夫の意思に反する結果にもなりかねません。
そこで、改正§903Ⅲでは、
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
と「持戻し免除」の意思を示した場合の処理方法を定めています。
先ほどの例で、亡き夫が、生前または遺言などで、「持ち戻し計算をしないように」との意思を表示していた場合には、遺産分割時に持ち戻し計算は不要となります(この意思表示は遺言に限られません。)。
これをさらに進めたのが、今回の改正相続法です。
持戻し免除の意思表示推定規定 (居住用不動産)
改正§903Ⅳ
婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
これは、居住用不動産を、婚姻期間20年が経過してから夫から妻に名義を移転して贈与をしていたのであれば、夫が、生前に、ことさら「持戻し免除の意思表示」をしていなくても、夫には妻への居住用不動産について、「持戻しを免除する意思があったものと推定する」=持ち戻し計算をしないこととしたのです。
これにより、20年の婚姻期間を経てからの妻への居住用建物の生前贈与は、遺産への持ち戻しが不要となる結果、遺産分割の対象から外れることになります。
妻は、夫に先立たれても、安心して現在の居宅で生活を続けることができ、遺産分割でも十分な金銭の分配にもあずかることができて老後の生活保障を図ることができるようになるわけです。
次回、この持戻し免除の意思表示推定規定の適用の可否について、実務上問題になり得る点(想定事例)を何点か挙げてご紹介したいと思います。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。